
RISING SUN ROCK FESTIVAL(ライジング・サン・ロック・フェスティバル)は、毎年夏に北海道石狩市・小樽市の石狩湾新港樽川ふ頭横 野外特設ステージで開催されている国内最大級の野外オールナイトロック・フェスティバルイベントのひとつだ。北海道札幌市のコンサート企画・運営会社WESSが1999年に始めた歴史のあるフェスで、周りに何もない石狩湾新港だからこそ開催できるオールナイトイベントとなっている。ステージはいくつかあるが、わりとこじんまりした森の中のボヘミアンガーデンというステージで、ブラックマジックデザインのシネマカメラを使った収録が行われた。そのディレクションを担当した株式会社アーティザナルの工藤 遼さんにお話をうかがった。(編集部 一柳)

――ボヘミアンガーデンステージをシネマカメラで撮りたいというのはどういう経緯があったんでしょうか?
主催のWESSの高崎さんとも相談していまして、ボヘミアンガーデンステージは森の中といいますが、結構自然のなかにあって、比較的コンパクトなサイズなので、シネマカメラを使ってシネマティックな映像に挑戦してみたいということになりました。
――他のステージはどういうシステムで撮られているのでしょうか?
大きな3つのステージは、テレビ局の中継車による収録クルーが入って、ENGのズームレンズを使ったシステムカメラを使っています。このボヘミアンガーデンは、シネマカメラにして、ここだけはあえて24p収録をしようと思いました。
――シネマカメラといってもいろいろと選択肢があると思いますが。
私はもともとブラックマジックデザインの製品をコンバーター時代からよく使っていて、転換点になったのはポケシネ4K(Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K)でした。それを購入して使わせていただくようになったのですが、非常に安価でコストパフォーマンスの高い製品で、そのカメラで撮れるBlackmagic RAW(BRAW)のデータはすごくアドバンテージがあるなと常々思っていました。今回、高崎さんと、こんなふうな映像で撮れたらいいよねという話をしていくなかで、メインカメラとしては、URSA Mini Pro 4.6K G2を3台、舞台のフロントに入れて、サブカメラとして後方にPocket Cinema Camera 6K ProとMicro Studio Camera 4K G2を用意することにしました。

デジタル一眼でも大判センサーの映像を撮ることができますが、URSAのようなシネマカメラは本来から同軸1本からSDIを出力することができます。その安心感には代え難いものがあります。またNDフィルターが内蔵されていることも大きくて、フロントにくるカメラに関しては、光量がアーティストによってかなり変わるので、内蔵のNDフィルターがあると光量を落とすことができて、カメラマンたちにとっても好評ですし、結果的に編集をする私にとっても画の破綻がないのは、改めていいなと思いましたね。

レンズはフロントのカメラのURSAにはキヤノンのシネマズームレンズを使用しました。後方のMicro Studio Camera 4K G2にはパナソニックのマイクロフォーサーズのレンズを付けています。実はここもかなり悩みました。スチルレンズでやってみようかと思ったんですけれども、やっぱりスチルのズームレンズだとバックフォーカスの問題でピントがズレしまう心配があるという意見がカメラマンたちからあがって、できるだけシネマレンズでいきたいという希望がありました。キヤノンのシネマズームはレンタル費用も比較安価なので、現実的なチョイスでした。
――ライブ配信はないのですが、ATEMのスイッチャーを入れてスイッチング収録もしているんですね。
はい。私がディレクター兼スイッチャーとして参加していまして、ライブ配信はなかったんですけれども、基本的にその現場で一旦スイッチングをしています。スイッチングして収録したものは高崎さんのほうにすぐ共有させていただいて、アーティストさんのマネージメントサイドに、いわゆるプレビューのデータとして渡しました。


カメラ側ではBRAWで収録して、それをスイッチングのデータを参考にしながら、後でDaVinci Resolveで編集して仕上げるというワークフローでした。
――プレビューをすぐに渡すというのは?
アーティストの許諾をスピーディにとるためです。放送では各アーティスト1、2曲をオンエアするのですが、もし編集後にプレビューを見せてということだとかなりの時間がかかってしまいます。収録したものをどんどん高崎さんに渡して、高崎さんがそれをアーティストサイドに展開して、オンエアに向けた許諾をとっていこうという流れです。
もっとも現場のスイッチングそのままということではないですし、カットも変更したり、音声も細かい修正を入れたりするのですが、アーティストによっては、いろいろな要望もあるので、なるべく早いタイミングでそういう要望をいただいたほうが、進めやすいということはうかがっていますので。現場でスイッチングするというフローがないと、いろいろなことが間に合わないんです。
最終的にはスイッチングミスということではないにしても、現場で感覚でやってしまっているところもありますので、スイッチングしたものをガイド的に使いながら、あらためてきっちり編集をしていくっていうような形で、完パケを目指していきました。
――カメラの収録は?
フレームレートは23.98のUltra HDで、収録はBlackmagic Rawで圧縮は12:1です。収録はCFastのカードにしました。本来はもっと高いレートを狙いたいのですが、ライジングサンは実質2.5日でかなりの長丁場なので、高いレートにするとバックアップ等もままならないところもあって、カメラテストを重ねて、12:1でも使用に耐えうるということで選択しました。データマネージャーをチームの中にひとりいれていまして、アーティストの間のセットチェンジのタイミングの間に、データをどんどんバックアップしていきました。そのバックアップもひとつでは怖いので、常にふたつに取り続けていきました。

――グレーディングは工藤さんが担当されているんでしょうか? そのコンセプトは?
ライジングサンの中でも特にボヘミアンガーデンは、5つあるステージの中でも小規模なほうで、特に自然緑豊かなロケーションとして設定されているので、やはりその魅力が伝わるようにということを考えました。小規模なステージなので、アーティストが近いですし、さらに観客も近いんですが、デジタルシネマカメラで、スキントーンをナチュラルな感じに表現したいと思いました。そういったところがよく出るようにカメラマンたちと相談して、LUTを作りまして、それをベースにしてグレーディングしていきました。
編集ではそれほど時間がないということもあって、LUTをベースにして、ただアーティストさんによって照明の入り方も違いますし、それから今年はわりと薄曇りが多くて天候のコンディションも刻々と変わったのでそれに合わせて調整していきました。
やはりBRAWのアドバンテージだと思うんですけれども、これだけのダイナミックレンジで撮れてると、絵として破綻してないので非常にいじりやすいのがすごく魅力的で最終的なフィニッシュまで持って行けたかなと思います。

――今回シネマカメラで撮るということで、カメラワーク的にちょっと何か考えようというか、ちょっと変えたところとか、意識したところはありますか?
ブラックマジックデザインのシネマカメラはすごく魅力的なフッテージが担保できる部分がある一方で、手ブレが強いとか、オートフォーカスがいいとか、昨今の他社のカメラの売りはありません。あえてそういったところから脱却してやってみようというが今回の我々のテーマでした。まずベースになる画は、しっかりと三脚に乗せたカメラできっちりワンカットで長持ちする画で撮るということを大前提としました。仮にワンカットが長かったとしても、充分見ていられる画というのが、ブラックマジックデザインのシネマカメラの画だと私たちのチームのみんなが捉えていたので、それをベースにしました。
ただライブという性質もあるので、あえてカメラのブレを生かそうという狙いもありました。URSA Mini Pro 4.6K G2をあえてハンディで担いだりして、特に観客側の表情を撮るということをやりました。泉谷しげるさんのときは、観客で涙している方が結構多かったのですが、そういった感情の揺らぎなんかは、やはり手持ちで撮った時のほうが伝わるのではないかなという狙いで、あえて三脚から外して、手持ちでカメラマン勝負というようなコンセプトでやりました。
したがってURSAなどはハンディを想定して、ショルダーマウントとファインダーをつけて運用しました。映像を見た方はよくわかると思うのですが、ボヘミアンガーデンステージはアーティストとの距離が非常に近いんですよ。私たちスタッフもかなり前のめりになって撮っていくなど、すごく楽しくやらせてもらいました。

――映像に対してのみなさんの反応はどうですか?
昨年に引き続き今年もぜひこれをやりたいと思っています。それが非常に反応が良かったという証拠だと思います。また同業者からは、「あれ、何をやったんだよ?」みたいな反応でしたね。
今回歴史のあるフェスで多くのステージで、いくつものチームが入っていますが、主催者やメーカーの協力のおかげで、ボヘミアンガーデンステージで自由度が高い挑戦をさせていただき、ありがたいと思っています。
私たちももっと良いものを目指してアップデートして日々挑戦していかないと、次の機会に呼ばれなくなってしまいます。今年のライジングサンでは単なるシネマカメラを導入するだけでなく、12Kくらいの高解像度カメラから切り出すといった、何かしら新しい表現に挑戦していきたいと思っています。

◉今年のRSRのHP
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◉株式会社アーティザナル Instagramアカウント
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